日本では、高齢化の進展に伴い、年間の死亡者数が高い水準で推移する時代を迎えています。多くの人が長寿を享受できるようになったことは、社会の大きな成果です。しかし、その一方で、亡くなる人が増えることによって、医療、介護、葬送、住宅、相続、地域社会、労働力、公共サービスなど、さまざまな領域に新しい課題が生まれています。

多死社会という言葉からは、火葬場の不足や葬儀の増加といった問題が思い浮かぶかもしれません。しかし、問題の本質は、単純に亡くなる人の数が増えることではありません。これまで家族や地域社会が担ってきた役割を、従来どおりには維持できなくなっていることにあります。

例えば、身寄りのない高齢者が亡くなった場合、遺体の引き取り、火葬、遺骨の保管、住居の整理、公共料金や契約の終了、財産の管理などを誰が担うのでしょうか。病院や介護施設で最期を迎える人が増えれば、看取りを支える人材や設備をどのように確保するかという問題も生じます。さらに、死亡者数の増加と人口減少が同時に進む地域では、住民が減る一方で、行政や福祉の仕事が増えるという難しい状況も起こり得ます。

したがって、多死社会への対応は、葬儀や医療の現場だけに任せることのできない社会設計の課題です。必要なのは、発生した問題を個別に処理するだけでなく、問題が生まれる構造を理解し、制度、産業、地域、人材、技術を組み合わせて克服方策を設計することです。

ここでは、多死社会によって生じる社会課題を整理し、それらを克服するための具体的な政策や仕組み、産業の可能性まで掘り下げて考えます。

Contents

1. 多死社会とは何か――死亡者数の増加が社会の仕組みを変える

多死社会は、単に「亡くなる人が多い社会」ではない

多死社会とは、人口の高齢化などを背景として、死亡者数が多い状態が続く社会を指します。日本では、出生数の減少と高齢者人口の増加が並行して進んでおり、人口構造そのものが大きく変化しています。

死亡者数の増加は、必ずしも社会の衰退を意味するわけではありません。長寿化によって多くの人が高齢期を迎え、人生の最終段階を支える医療や介護が重要になることは、ある意味では社会の発展に伴う変化でもあります。

問題は、社会の仕組みがその変化に対応できるかどうかです。

例えば、人口が増加し、家族の規模も比較的大きかった時代には、親の看取りや葬儀、財産の整理などを家族が分担できる場合がありました。しかし、単身世帯や夫婦のみの世帯が増え、子どもが遠方に住み、親族との交流も少なくなれば、同じ仕組みを維持することは難しくなります。

つまり、多死社会とは、死亡者数の増加に加えて、死を支える人間関係や制度の構造が変化する社会でもあるのです。

多死社会と人口減少は、同時に進む

多死社会を考えるうえで重要なのは、死亡者数の増加と人口減少を別々の現象として扱わないことです。

人口は、出生と死亡による自然増減に、転入と転出による社会増減を加えて変化します。出生数が死亡数を下回れば、他の条件が同じであれば人口は減少します。

人口が減少する地域では、税収や地域の担い手が減る一方で、高齢者の医療、介護、生活支援、看取り、死後の手続きなどに必要な仕事が増える可能性があります。

このため、地域社会では、支える側の人数が減るなかで、支えなければならない課題が増えるという状況が起こり得ます。

例えば、人口の少ない自治体で火葬場や医療機関の運営を維持するには、一定の費用と専門人材が必要です。しかし、利用者数や働き手が減少すれば、施設の維持や人材確保が難しくなります。

一方、都市部では、死亡者数の増加によって火葬場や葬祭関連施設の需要が集中する可能性があります。同じ多死社会でも、地方では施設や人材を維持することが課題となり、都市部では需要の集中に対応することが課題になるのです。

社会課題は、死の前後に連続して発生する

多死社会の問題は、死亡した瞬間に始まるわけではありません。

人生の最終段階における医療や介護、本人の意思決定、家族の負担、住宅の確保、経済的な困窮、社会的な孤立などは、亡くなる前から関係しています。そして死亡後には、遺体の搬送、火葬、葬送、遺骨の管理、相続、住居の整理、各種契約の終了などの問題が生じます。

これらは独立した問題ではなく、相互に関係しています。

例えば、生前に身寄りのない人の生活を支える仕組みが整っていなければ、死亡後に連絡先を確認できず、火葬や遺骨の管理が難しくなることがあります。反対に、生前から本人の希望や関係者の情報を適切に確認できていれば、死後の対応を円滑に進められる可能性があります。

したがって、多死社会への対策は、死亡後の事務処理を効率化するだけでは不十分です。生前の暮らしから人生の最終段階、死亡後の手続きまでを、一続きの支援システムとして設計する必要があります。

2. 課題の全体像――多死社会で何が問題になるのか

多死社会の課題は、個別の出来事を並べるだけでは全体像をつかめません。重要なのは、社会のどの機能に負荷がかかり、どのような原因によって問題が発生し、それが他の問題をどう引き起こすかを整理することです。

多死社会の7つの社会課題

1. 医療・介護・看取りの供給力不足

人生の最終段階を支える人材、病床、在宅医療、介護サービスが不足する。

2. 火葬・葬送・納骨の処理能力不足

火葬場の混雑、施設の老朽化、遺骨の保管、葬送費用などの問題が生じる。

3. 家族機能と地域の支え合いの変化

身寄りのない人、社会的孤立、看取りや死後の手続きを担う人の不在が問題になる。

4. 経済的負担と資産・契約の問題

葬送費用、相続、空き家、未払い契約、所有者不明の財産などへの対応が必要になる。

5. 行政サービスと公共インフラの負荷

自治体の事務負担、施設の維持費、地域間格差が拡大する。

6. 権利保護と意思決定の問題

本人の意思が確認できない場合の医療判断、財産管理、個人情報の扱いなどが問われる。

7. 死後の資源・環境・文化の問題

住居や家財の整理、廃棄物、葬送の環境負荷、墓地の継承、弔いの文化が課題になる。

これらの課題は、互いに独立しているわけではありません。例えば、身寄りのない人が医療機関で亡くなった場合、医療機関は遺体の引き渡し先を確認しなければなりません。引き取り手が見つからなければ、自治体が関係法令に基づいて対応し、火葬後には遺骨の管理が必要になることがあります。

また、死亡によって住宅が空き家になり、家財の整理や契約の終了、相続人の確認などが必要になることもあります。

したがって、課題を克服するには、各分野で個別の対策を実施するだけでなく、問題の連鎖を断ち切る仕組みが必要です。

3. 医療・介護・看取りの再設計――最期を支える供給力をどう確保するか

看取りの需要が増えても、担い手が同じ割合で増えるとは限らない

多死社会で最も重要な課題の一つが、人生の最終段階を支える医療・介護の供給体制です。

高齢者人口の増加に伴い、がん、心不全、呼吸器疾患、認知症などを抱えながら生活する人や、複数の慢性疾患を持つ人を支える必要性が高まります。亡くなる直前だけでなく、長い期間にわたって生活と医療を支える体制が求められます。

一方で、医療・介護の現場では、人材確保、勤務負担、地域偏在などが課題となっています。人口減少地域では、支援を必要とする人が増える一方で、働き手や施設を維持するための財源が減る可能性があります。

この問題を解決するには、病床や施設を増やすという方法だけでは十分ではありません。どこで、誰が、どのような支援を提供するかを、地域の人口構造に合わせて再設計する必要があります。

病院だけに依存しない看取りの仕組みをつくる

人生の最終段階を支える場所には、病院、介護施設、自宅など、さまざまな選択肢があります。

在宅での看取りを希望する人がいる一方、家族の介護力や住環境、医療的な必要性などによって、自宅で過ごすことが難しい人もいます。施設での看取りを充実させる場合にも、医師との連携、夜間の対応、職員の教育、急変時の判断などが必要です。

そのため、単純に「病院から在宅へ」という方向を目指すのではなく、本人の希望と地域の支援能力を踏まえて、複数の選択肢を組み合わせることが重要です。

具体的には、在宅医療と訪問看護、介護サービス、地域の医療機関、介護施設、緊急時の受け入れ先をつなぐ体制を整えます。自宅での生活が難しくなったときに、一時的に施設を利用できる仕組みや、家族が休息できる支援も必要です。

また、本人の希望は病状や生活状況によって変わります。事前に一度決めた方針を固定するのではなく、本人と支援者が繰り返し話し合い、必要に応じて見直すことが重要です。

人材不足を、業務設計と技術活用によって克服する

医療・介護の担い手を確保するには、採用を増やすだけでなく、一人ひとりの専門性を有効に生かせる業務設計が必要です。

例えば、記録作成、情報共有、日程調整、定型的な事務処理などをデジタル化すれば、職員が利用者との対話や専門的な判断に使える時間を増やせる可能性があります。見守りセンサーや介護ロボットも、適切に活用すれば、身体的な負担や確認業務の一部を軽減できます。

ただし、技術の導入だけで人手不足が解消するわけではありません。現場の業務を分析し、何を自動化し、何を人間が担うべきかを明確にする必要があります。

特に看取りの場面では、本人や家族の不安を受け止めること、価値観の違いを調整すること、状況に応じて判断することなど、人間の専門性が重要です。

多死社会に向けた人材戦略は、単なる省人化ではなく、限られた人材がより質の高いケアを実現できるようにすることを目標に据えるべきです。

4. 火葬・葬送・納骨の社会インフラを整備する

火葬場は、地域社会に不可欠な公共的インフラである

日本では火葬が広く普及しており、死亡者数が増えれば、火葬を行う施設の需要も増加します。

日本総合研究所が2026年に公表した分析では、2025年の日本人の死亡者数は約158万9千人となり、人口推計の死亡中位推計を上回ったことが指摘されています。都市部では火葬場の不足や火葬待ちが課題となっており、今後の供給体制の検討が必要です。日本総研+1

火葬場は、一般的な商業施設とは異なる性格を持っています。需要が高まったからといって、すぐに新設できるわけではありません。土地の確保、環境への配慮、周辺住民との合意形成、建設費、長期的な維持管理など、多くの課題があります。

さらに、死亡者数が将来減少する地域では、過剰な設備投資が自治体の財政を圧迫する可能性もあります。

そのため、必要な火葬能力を確保するには、地域ごとの死亡者数の見通し、既存施設の稼働率、老朽化の状況、移動距離などを総合的に分析しなければなりません。

火葬能力は、施設数だけでなく運営方法によっても変わる

火葬場の供給力を考える際には、施設を何か所建設するかだけでなく、既存施設をどのように運営するかも重要です。

例えば、予約情報を共有し、地域内の施設の空き状況を把握しやすくすれば、需要の偏りを緩和できる可能性があります。自治体間で協力して利用調整を行うことや、施設の改修計画を共同で策定することも考えられます。

ただし、運営の効率化には限界があります。火葬には施設の能力や安全上の制約があり、希望する時間帯に予約を集中させないための調整も必要です。

また、火葬場の立地や移動手段によっては、遺族や葬祭事業者の負担が大きくなることもあります。単に処理件数を増やすのではなく、利用者にとって無理のないサービス水準を維持することが重要です。

葬送の多様化を、持続可能な仕組みにつなげる

葬送の形は、家族葬、直葬、合同供養、樹木葬、納骨堂など、多様化しています。こうした変化は、家族の規模や価値観、経済状況の変化を反映しています。

ただし、選択肢が増えることと、誰もが適切な選択肢を利用できることは別の問題です。費用や情報の格差によって、本人の希望に合った葬送を選べない場合があります。

また、墓地や納骨堂の管理を担う人がいなくなれば、将来的に管理や承継が問題になります。新しい葬送サービスを設計する際には、利用時の費用だけでなく、長期的な管理の継続性も考える必要があります。

公的な制度は必要な火葬を保障し、民間の事業者や地域の団体は多様な葬送ニーズに対応する。この役割分担を明確にすることが、持続可能な葬送インフラの基盤になります。

5. 身寄りのない人と社会的孤立――家族に依存しない支援をつくる

死後の問題は、生前の孤立から始まっている

多死社会では、身寄りのない人や、親族がいても支援を受けられない人への対応が重要になります。

厚生労働省の委託による調査では、2023年度に自治体が火葬などを行った引き取り手のない遺体は、全国で約4万2千人と推計されました。また、対応マニュアルなどを整備している自治体は約1割にとどまっていたと報じられています。日本総研+1

この問題は、死亡後の手続きだけを改善しても、十分には解決できません。

身寄りのない人が地域で暮らしている場合、病気になったときに相談できる人がいない、入院時の連絡先を確保できない、生活上の問題を誰にも伝えられないなど、さまざまな困難を抱える可能性があります。

そこで重要になるのが、地域包括支援センター、社会福祉協議会、生活困窮者支援団体、医療機関、福祉施設などが連携し、本人の生活を継続的に支える体制です。

ただし、すべての単身者が孤立しているわけではありません。単身であることと、支援が必要であることを同一視せず、本人の希望や実際の人間関係を踏まえて支援を設計する必要があります。

死亡後の事務を、個人や親族だけの責任にしない

人が亡くなると、葬送だけでなく、住居の解約、家財の整理、公共料金や通信契約の終了、財産や債務の確認など、さまざまな手続きが発生します。

これらを親族が担える場合はよいのですが、身寄りのない人や親族との関係が途絶えている人については、誰が何を担うのかが明確でないことがあります。

対策としては、まず、本人が生前から相談できる窓口を整備し、必要に応じて死後事務委任契約などの選択肢を案内することが考えられます。また、成年後見制度や福祉サービスなどとの連携を通じて、本人の財産や生活上の権利を適切に守ることも重要です。

ただし、契約を結ぶ費用や手続きの理解が障壁となる人もいます。民間サービスを利用できる人だけが安心を確保できる仕組みでは、公平性が損なわれます。

そのため、低所得者や契約を自力で進めることが難しい人に対しては、相談支援や公的な制度によって補完する必要があります。

地域のつながりを、善意から持続可能な仕組みへ変える

孤立対策を近隣住民の善意だけに委ねることには限界があります。地域活動の担い手が高齢化し、自治会などの活動が縮小する地域もあるためです。

今後は、住民同士のつながりを大切にしながら、専門職や組織がそれを支える仕組みが必要です。

例えば、地域の相談窓口を中心に、本人の同意を得たうえで緊急時の連絡先や支援者を確認できるようにすることが考えられます。医療機関や介護事業所が、身寄りのない人への対応手順を共有しておけば、担当者の経験だけに依存する事態を減らせます。

重要なのは、地域住民にすべてを任せることではなく、地域の関係性を専門的な支援とつなぐことです。

6. 相続・空き家・財産管理――死後に発生する経済的な問題

死亡によって住宅が空き家になる

多死社会では、死亡者数の増加に伴い、相続や住居の整理に関する問題も重要になります。

高齢者が亡くなった後、住んでいた住宅を誰が引き継ぐのか、売却するのか、賃貸に出すのか、それとも管理を続けるのかが決まらない場合があります。相続人が複数いる場合や、相続人の所在が分からない場合には、意思決定に時間がかかることもあります。

空き家を長期間放置すると、建物の劣化、防犯、防災、景観などの問題が生じる可能性があります。所有者が不明確な土地や建物については、地域の土地利用や公共事業にも影響が及びます。

この問題を克服するには、死亡後の相続手続きだけでなく、生前から住居の将来について考えられる環境を整えることが重要です。

相続手続きの円滑化と、本人の権利保護を両立する

相続に関する制度や手続きは、財産を適切に引き継ぐために重要です。しかし、本人の意思が明確でない場合や、相続人が複数いる場合には、財産の処分や管理が難しくなることがあります。

また、相続財産には預貯金や不動産だけでなく、債務や未払い費用などが含まれることもあります。死亡後の事務を円滑に進めるには、財産や契約に関する情報を適切に管理することが重要です。

一方で、生前の財産管理や死後の事務を民間事業者に任せる場合には、契約内容、費用、事業者の継続性、個人情報の管理などを慎重に確認しなければなりません。

特に、判断能力が低下した人や社会的に孤立している人は、不要な契約や不適切な勧誘の被害に遭う危険性があります。支援の仕組みは、手続きの効率化だけでなく、本人の権利や財産を守ることを中心に設計する必要があります。

家財整理や遺品整理を、地域の資源循環につなげる

死亡後の家財整理は、家族や支援者にとって大きな負担になることがあります。

住居に残された家具、衣類、家電、書籍、生活用品などをすべて廃棄するのではなく、再利用できるものは適切な方法で譲渡・再資源化し、廃棄物を減らす取り組みも考えられます。

ただし、遺品には個人情報や思い出の品が含まれます。本人や相続人の意思を確認せずに処分したり、再利用したりすることは避けなければなりません。

今後は、住宅管理、福祉、遺品整理、リユース、廃棄物処理などの事業者が適切に連携し、権利関係を確認しながら家財整理を進める仕組みが求められます。

こうした取り組みは、家族の負担を減らすだけでなく、資源の有効活用や空き家対策にもつながる可能性があります。

7. 行政と公共サービスの再設計――増える仕事を、減る担い手でどう支えるか

自治体の業務は、死亡届の受理だけでは終わらない

多死社会では、死亡に関連する行政業務が広い範囲に及びます。

死亡届や火葬許可に関する手続きに加え、引き取り手のない遺体への対応、親族の確認、遺留金の取り扱い、遺骨の保管、生活保護に関する事務、空き家や財産に関する相談など、複数の部署が関係する場合があります。

しかし、これらの業務が一つの部署で完結するとは限りません。担当部署が分かれていると、必要な情報を集めるために時間がかかったり、どの部署が調整の中心になるのかが不明確になったりすることがあります。

そこで必要なのは、死後に発生する事務を横断的に整理し、自治体内部での役割分担を明確にすることです。

例えば、死亡に関する相談を受け付ける窓口から、福祉、戸籍、住民記録、住宅、環境などの担当部署に適切につなげられるようにします。すべての業務を一つの部署に集約する必要はありませんが、全体を調整する責任者や連携の手順を明確にすることは重要です。

全国一律の最低基準と、地域ごとの柔軟な対応を組み合わせる

引き取り手のない遺体や遺骨への対応では、自治体によって実務上の違いが生じることがあります。地域の人口規模、施設、関係機関、地理的条件などが異なるため、すべての手続きを完全に同じ方法で行うことは難しいでしょう。

しかし、対応方法が担当者の経験や個別の判断だけに依存すると、必要な手続きが漏れたり、住民が受ける支援に大きな差が生まれたりする可能性があります。

そこで、国は法令の解釈や実務上の留意点を整理し、自治体が共通して参照できる基準やモデル手順を示すことが考えられます。自治体はそれを基礎として、地域の実情に応じたマニュアルや連絡体制を整備します。

重要なのは、全国一律の最低限の保障と、地域ごとの柔軟な運用を両立することです。

例えば、親族への連絡方法、遺体や遺骨の保管、記録の保存、関係機関との連携などについて基本的な手順を共有しつつ、火葬までの具体的な調整や地域の納骨先については、地域の状況に応じて対応する方法が考えられます。

デジタル化は、業務の見える化から始める

行政のデジタル化では、新しいシステムを導入すること自体が目的になりがちです。しかし、多死社会への対応で先に必要なのは、どのような業務が発生し、どこで時間がかかり、どの部署や組織が関係しているかを把握することです。

例えば、死亡に関連する業務を、受付、本人確認、親族調査、費用の確認、火葬の手配、遺骨の管理、記録の保存などに分解します。そのうえで、重複している作業、紙の書類を何度も作成している工程、担当者の経験に依存している判断などを洗い出します。

この分析を行ってから、電子記録や進捗管理システムを導入すれば、効果を検証しやすくなります。

一方、医療情報、戸籍情報、財産情報などは、特に慎重な管理が必要です。関係する情報を無制限に共有するのではなく、法的な根拠や本人の同意、業務上の必要性を確認し、閲覧権限や記録の保存期間を適切に設定しなければなりません。

8. 死を支える産業の再編――社会課題を新しい価値創造につなげる

葬儀産業だけでなく、生活支援産業として捉える

多死社会への対応を、社会保障費や行政負担の増加としてだけ捉えると、対策は費用削減に偏りやすくなります。しかし、死に関連する問題を解決するには、多くの専門的な仕事が必要になります。

例えば、看取り、葬送、遺骨の管理、住居の整理、財産管理、相続支援、心理的な支援、地域の相談窓口などです。これらを個別のサービスとして提供するだけでなく、必要な人が適切な支援にたどり着けるようにつなぐことに、新しい事業機会があります。

ここで重要なのは、社会課題の解決と利益の追求を対立させないことです。適切なサービスに対価を支払い、専門人材を育成し、長期的に運営できる事業モデルを構築できれば、社会に必要な支援を持続的に提供できる可能性があります。

ただし、支援を必要とする人の経済力によってサービスの質が極端に変わらないようにすることも必要です。市場に任せる部分と、公的な保障によって支える部分を明確にすることが、社会的な事業を成立させる条件になります。

「死後事務」を統合するサービスの可能性

今後、発展が期待される分野の一つが、死後に必要となる手続きや生活上の整理を、適切な専門家や事業者につなぐサービスです。

例えば、本人の希望に応じて、葬送、住居の整理、契約の終了、必要な専門家への相談などを整理し、手続きの進捗を管理する仕組みが考えられます。

ただし、すべての手続きを一社で引き受けることが最適とは限りません。相続、法律、財産管理、葬祭、廃棄物処理などには、それぞれ異なる専門性や法的な制約があります。

そのため、事業モデルとしては、総合的な相談窓口が必要な支援を把握し、各分野の専門家や事業者と連携する形が考えられます。本人の権利を守りながら、手続きの重複や連絡の行き違いを減らすことが価値になります。

また、本人が亡くなる前から相談できる仕組みを用意すれば、突然の死亡後に慌てて対応する必要を減らせる可能性があります。

地域の事業者をつなぐ「死後生活支援ネットワーク」

死に関連するサービスは、葬祭事業者、行政書士や司法書士などの専門家、住宅管理会社、遺品整理事業者、医療・福祉関係者など、さまざまな担い手によって提供されています。

しかし、それぞれが個別に活動していると、利用者が何度も事情を説明しなければならなかったり、必要なサービスを自力で探さなければならなかったりします。

そこで、地域の相談窓口を中心として、関係する事業者や団体をつなぐネットワークを整備することが考えられます。

このネットワークでは、各組織の役割、対応できる業務、費用の考え方、緊急時の連絡方法などを明確にします。利用者を紹介する場合には、利益相反や不適切な勧誘を防ぐためのルールも必要です。

特に、生活困窮者や判断能力が低下した人に対しては、特定の事業者のサービスを一方的に勧めるのではなく、複数の選択肢を比較できるようにすることが重要です。

新しい産業の発展と、公共的な保障を両立する

多死社会に対応する産業を育てることには、雇用の創出、専門人材の育成、サービスの質の向上などの可能性があります。

一方で、死後の不安を利用して高額な契約を勧めたり、本人が十分に理解しないまま財産管理を任せたりするような事業が広がれば、社会的な信頼を損ないます。

したがって、今後の産業政策では、単に市場規模を拡大するのではなく、利用者保護、料金の透明性、契約の継続性、個人情報の管理などを含めた事業環境を整える必要があります。

社会的な課題を事業機会に変えるとは、困っている人から利益を得ることではありません。解決されていない問題に対して、持続可能で信頼できるサービスを提供することです。

9. 多死社会を克服する政策設計――個別対応から統合的な社会システムへ

ここまでの課題を踏まえると、多死社会への対策は、個々の問題に対する施策を並べるだけでは不十分です。重要なのは、どのような社会を実現するのかという目標を定め、その目標から逆算して制度や事業を組み立てることです。

目標を「処理能力」から「生活と尊厳の保障」へ変える

火葬場の処理能力を増やすこと、行政事務を効率化すること、医療・介護の人材を確保することは、いずれも重要です。しかし、それらは最終的な目的ではなく、社会として実現したい状態を支える手段です。

目指すべきなのは、必要な医療や介護を受けられること、本人の意思が尊重されること、家族の有無や経済状況にかかわらず適切な葬送が保障されること、死後の手続きによって残された人や地域に過度な負担が生じないことです。

このような目標を設定すれば、施設の稼働率や事務処理件数だけでなく、本人の希望が確認されているか、必要な支援につながっているか、遺骨の管理が適切に行われているかといった指標も重要になります。

対策は、三つの時間軸で設計する

多死社会への対応は、緊急性の高い問題への対処、中期的な仕組みの整備、長期的な社会構造の変革に分けて考えると、優先順位をつけやすくなります。

短期

1. 現場の混乱を減らす

既存の火葬能力や看取り体制を把握し、引き取り手のない遺体・遺骨への対応手順を整備する。自治体の相談窓口や緊急連絡体制を明確にし、現場で必要な情報を共有できるようにする。

中期

2. 地域の支援システムを構築する

医療、介護、行政、葬祭、住宅、法律などの関係機関をつなぎ、生前の相談から死後の手続きまでを支える体制を整える。人材育成、デジタル化、施設の更新計画も進める。

長期

3. 家族依存型の社会構造を見直す

家族の有無や経済力によって人生の最終段階の支援に大きな差が生じないよう、公的保障と地域の支え合い、信頼できる民間サービスを組み合わせた社会システムを構築する。

短期的な対応だけでは、同じ問題が繰り返されます。一方、長期的な制度改革だけを議論していては、現場の混乱に対応できません。三つの時間軸を並行して進めることが必要です。

施策の効果を測る指標を設定する

政策を設計する際には、施策を実施したかどうかだけでなく、実際に問題が改善したかを測る必要があります。

例えば、火葬場の予約待ち日数、引き取り手のない遺体・遺骨への対応手順を整備した自治体の割合、看取りを支える人材の確保状況、本人の意思を確認する機会、死後の手続きに要する期間などを指標として設定できます。

ただし、数値化しやすいものだけを重視してはいけません。本人の尊厳、家族や支援者の安心、弔いの機会の確保などは、単純な数値では十分に表せない面があります。

定量的な指標と、利用者や支援者の声、事例検討などを組み合わせることが重要です。

また、自治体の規模や人口構造によって条件が異なるため、単純な順位づけよりも、地域の実情を踏まえた改善状況を評価する方法が適しています。

10. 地域ごとに実装する――多死社会への対策を具体的な計画に落とし込む

まず、地域の死亡と支援の需要を予測する

多死社会への対策を実際に進めるには、全国の傾向を把握するだけでなく、地域ごとの需要を分析する必要があります。

厚生労働省が紹介する人口推計では、2040年に65歳以上の人口が総人口の約35%になると見込まれています。また、単身世帯も増加し、2040年には全世帯の約4割を占めると予測されています。厚生労働省

ただし、全国の数値をそのまま個々の自治体に当てはめることはできません。人口の年齢構成、転入・転出、住宅事情、医療機関や介護施設の配置などによって、必要な対策は変わります。

そのため、自治体は少なくとも次のような項目を把握することが望まれます。

分析する領域把握したい情報政策への活用
人口・死亡年齢別死亡者数、将来推計看取りや火葬の需要予測
医療・介護看取りの場所、人材、施設の稼働状況医療・介護の供給体制の再編
葬送火葬能力、予約待ち、納骨先施設整備や広域連携
社会的孤立単身世帯、相談支援の利用状況生前の見守りと死後の支援
住宅・財産空き家、相続相談、住居整理の需要住宅政策や死後事務の改善
行政事務対応件数、処理期間、職員負担手順の標準化とデジタル化

こうした情報を定期的に更新することで、問題が深刻化してから対応するのではなく、必要な施設や人材を先回りして確保できるようになります。

地域の条件に応じて、異なる解決策を設計する

多死社会への対策は、すべての地域で同じ方法を採用すればよいわけではありません。

都市部では、火葬場や葬祭施設の需要が集中する一方、住宅の賃貸契約や相続、単身者の死後事務などが課題になりやすいと考えられます。そのため、施設の供給計画と、住宅・財産・死後事務に関する相談体制を組み合わせることが重要です。

地方では、医療・介護の担い手や火葬場の運営人材を確保することが難しくなる可能性があります。単独の自治体ですべてを整備するのではなく、複数の自治体が協力して施設や専門人材を確保する方法が考えられます。

また、地域の寺院や社会福祉協議会、NPOなどが持つ人的ネットワークを生かし、身寄りのない人の葬送や遺骨の管理を支える仕組みを構築することも有効です。

重要なのは、地域の課題を全国共通の枠組みで把握しながら、実際の解決方法は地域の条件に合わせて選択することです。

政策を一度つくって終わりにしない

多死社会の進行は、地域によって速度も形も異なります。人口構造や家族関係、技術、葬送に関する価値観も変化していくため、一度つくった制度をそのまま維持するだけでは、将来の需要に対応できない可能性があります。

そこで、自治体の対策には、計画、実施、評価、改善を繰り返す仕組みを組み込む必要があります。

例えば、火葬場の混雑が予測を上回った場合には、予約調整だけで対応できるのか、施設の改修が必要なのかを検討します。身寄りのない人の死後事務に時間がかかっている場合には、担当部署の連携や情報管理の方法を見直します。

こうした改善を積み重ねることで、個々の職員の経験に頼るのではなく、組織全体の対応能力を高めることができます。

11. 多死社会を新しい社会モデルへの転換点にする

「人口が減るから縮小する」という発想だけでは不十分

人口減少が進む社会では、公共サービスや施設を縮小し、費用を抑えることが必要になる場面があります。しかし、人口が減少するからといって、社会が担うべき機能まで単純に減らせるわけではありません。

むしろ、支援を必要とする人が増える一方で、担い手が減ることを前提に、サービスの提供方法を変える必要があります。

例えば、医療・介護の連携を強化すること、行政手続きをデジタル化すること、複数の自治体で施設を共同運営すること、専門的な相談機能を地域で共有することなどが考えられます。

これは、従来の仕組みをそのまま維持するための効率化ではありません。限られた人材や財源でも、必要な支援を継続できる社会へ転換する取り組みです。

死を支える仕組みから、生きることを支える仕組みを考える

多死社会への対策を考えるとき、死亡後の手続きや葬送に焦点が当たりやすくなります。しかし、より根本的な課題は、人が最期まで安心して暮らせる社会をどのようにつくるかということです。

本人の意思を確認できる機会があり、必要な医療や介護を受けられ、身寄りがなくても相談できる相手がいて、亡くなった後の手続きについても過度な不安を抱えずに済む。そうした環境を整えることが、人生の最終段階の安心につながります。

そのためには、終末期の支援を医療・介護だけの問題とせず、住宅、法律、金融、地域福祉、葬送などをつなぐ必要があります。

さらに、本人の希望を確認することと、本人にすべての準備を自己責任として求めることは違います。生前の備えを支援しながら、準備できなかった人にも必要な保障が届くようにすることが重要です。

多死社会への対応を、社会の新しい能力として育てる

多死社会は、日本にとって大きな課題です。しかし、その克服に向けた取り組みは、社会の新しい能力を育てる機会にもなります。

医療・介護・葬送・住宅・行政の連携を進めることは、これまで分断されていたサービスをつなぐことにつながります。本人の尊厳を守るための制度を整えることは、家族の有無や経済力に左右されにくい社会をつくることにつながります。

また、地域の課題を分析し、必要なサービスを設計し、専門人材を育成し、デジタル技術を適切に活用する経験は、今後さらに高齢化が進む他の国や地域にとっても参考になる可能性があります。

ただし、社会課題を産業の成長機会に変える場合にも、利益の追求が本人の権利や尊厳を損なわないようにすることが不可欠です。経済的な持続可能性と、人間の尊厳を保障する仕組みを両立させることが求められます。

12. 結論――多死社会の克服は、社会の支え方を再設計することである

多死社会で発生する問題は、火葬場の不足、医療・介護の人材不足、身寄りのない人への対応、相続や空き家、行政事務の増大など、多岐にわたります。

しかし、これらの問題には共通する構造があります。それは、家族や地域社会が担ってきた役割を従来どおりに維持することが難しくなる一方で、その役割を補う制度やサービスが十分に整っていないことです。

したがって、多死社会への対策は、個々の問題に対する応急措置だけでは不十分です。人生の最終段階から死亡後までを一続きの支援として捉え、公的保障、専門職、民間事業者、地域社会の役割を再設計する必要があります。

克服に向けては、次の五つの方向性が重要になります。

  • 第一に、需要を予測すること。 死亡者数、看取り、火葬、住居の整理などの需要を地域単位で把握し、施設や人材を計画的に確保します。
  • 第二に、家族に依存しすぎない支援をつくること。 身寄りのない人や社会的に孤立している人も、必要な支援につながれる仕組みを整えます。
  • 第三に、分野を越えて連携すること。 医療、介護、行政、葬送、住宅、法律などの関係者が、必要な範囲で情報を共有し、役割を分担します。
  • 第四に、技術と専門性を組み合わせること。 デジタル化やAIを事務処理や情報共有に活用し、人間は対話、判断、権利保護などに力を注げるようにします。
  • 第五に、持続可能な運営方法をつくること。 公的な保障を土台としながら、地域の団体や民間事業者の能力を生かし、サービスの質と継続性を確保します。

多死社会への対応を、亡くなる人が増えることへの受動的な対策としてだけ捉えるべきではありません。人が亡くなるまでの暮らしを支え、死後に発生する問題を適切に引き受け、残された人々の負担を減らすために、社会全体の仕組みを見直す機会でもあります。

多死社会を克服するとは、死をなくすことではなく、誰もが尊厳をもって生き、最期を迎え、そして適切に見送られる社会をつくることです。

この目標を共有し、人口構造の変化を踏まえて制度、産業、地域、人材、技術を組み合わせていくことが、これからの日本に求められる社会設計の方向性です。